骨軟部腫瘍・整形外科:良性軟部腫瘍

良性軟部腫瘍

1)脂肪腫

脂肪腫は皮下や深部の脂肪組織から発生し、最も発生頻度の高い良性軟部腫瘍です。40-60歳台に多く見られます。治療は手術的な切除ですが、整容上の問題や圧迫による症状がなければ経過観察とすることも多い腫瘍です。ただ、問題となるのが高分化型脂肪肉腫という悪性腫瘍との区別です。高分化型脂肪肉腫は画像も検査や組織検査でも脂肪腫と区別することが困難な例もあります。画像所見、組織検査所見や増大傾向の有無なども含めて総合的に判断する必要があります。脂肪腫を手術切除する場合、小さく皮下の浅い位置にあるような脂肪腫であれば局所麻酔での日帰り手術が可能です。大きいものや深部にある脂肪腫は全身麻酔、入院が必要となります。


2)神経鞘腫

神経鞘腫は軟部腫瘍の5%を占める良性神経原性腫瘍です。末梢神経を取り巻くシュワン細胞から発生する腫瘍で、神経の束の中に発生します(図)。単発性の腫瘤であることが多いのですが、多結節状、数珠状になることもあります。神経鞘腫の症状の特徴は圧痛や神経に沿ったしびれや放散痛があることですが、痛みなどの症状がなく、画像検査で偶然見つかることもあります。手術は、神経をできるだけ傷つけないように核出術を行いますが、細心の注意を払っても、神経障害(麻痺や知覚障害)を生じてしまうことがあります。良性腫瘍ですので、症状がない場合や、重篤な神経障害を生じる可能性がある場合には経過観察することもあります。


神経鞘腫


3)血管腫・静脈奇形

血管腫(静脈奇形)はスポンジ状または嚢胞状の血管腔で構成される腫瘍性病変です。無症状の場合も多く、偶然見つかることもありますが、大きくなって、周囲組織の圧迫や、血栓形成による疼痛で腫瘤を自覚することもあります。血管腫は、周囲組織との境界が不明瞭であることが多く、また、切除が不十分であると再発を生じる可能性が高いため、筋肉内発生では、周囲の筋肉とともに切除することになります。そのため、術後の機能障害の恐れもあるので、無症状で整容的にも問題なければ経過観察をすることが多い腫瘍です。疼痛がある場合は、消炎鎮痛剤、湿布貼付、圧迫、クーリングなどで鎮痛を試みます。しかし、これらの保存治療に抵抗する症例では手術切除や硬化療法や血管内塞栓療法が選択されることもあります。


4)デスモイド型線維腫症

デスモイド型線維腫症は、深在性軟部組織に発生する線維芽細胞の増殖によるもので、局所浸潤性は強いものの、遠隔転移を生じないのが特徴で、中間型の腫瘍に位置付けられています。発生部位によって腹腔内、腹腔内デスモイドに大別され、臨床像はそれぞれ異なります。整形外科で診療することが多いのは腹腔外デスモイドで、筋肉や筋膜、腱膜から発生します。従来、広範切除による手術が治療の中心と考えられてきましたが、切除後の高い再発率がある一方で、自然消退することもあり、慎重な経過観察、薬物療法や放射線治療などの手術以外の治療が選択されるようになってきています。2019年に、腹腔外デスモイド型線維腫症の診療ガイドラインが発行され、診療アルゴリズムが提示されています。アルゴリズムによると、診断時に症状が強い、あるいは腫瘍の増大が明らかな場合で、術後機能障害が少ないと想定される症例で手術を考慮してよい、とされています。逆に、症状がなく、明らか増大傾向がない場合は、いきなり手術を選択するのではなく、注意深い経過観察、またはCOX-2阻害剤、トラニラストなどの比較的毒性の少ない薬物療法を選択し、3-6か月ごとに画像評価を行うことが望ましいとされています。


5)ガングリオン

ガングリオンは手関節、手、足関節、足に多く発生する嚢腫性の腫瘍類似病変で、内容物はヒアルロン酸やその他のムコ多糖類に富んだゼラチン状の液体です。「ガン」という言葉が含まれていますが悪性ではありません。穿刺によってゼラチン状の排液を認めて、排液後に腫瘤部分が平坦化すれば、さらなる治療は必要ありません。また膨れてくることもありますが、自然に縮小したり破れたりすることがあるので、基本的には経過観察でよいのですが、痛みがある場合や再発を繰り返す場合には手術で切除することもあります。ただし、手術しても再発する可能性もあります。また軟部腫瘍の中には、ガングリオンと同じようなゼラチン状液体を有する腫瘍もありますので、ガングリオンと思っていたら別の腫瘍だったということもあるので注意が必要です。


6)粉瘤(アテローム)

粉瘤は、本来皮膚から剥げ落ちるはずの皮膚の角質や皮脂が、皮膚の下にできた袋状の構造物の中に貯留してできた腫瘍類似病変です。中央部腫瘤の中央部が皮膚と癒着していることが特徴で、中央部に黒点状の開口部を認めることがあります。小さいものは経過観察でもよいですが、感染を伴うことがあり、発赤を認める場合や、大きな腫瘤の場合には、切除を考慮します。