治療に関した副作用: 脱毛

脱毛とは

脱毛とは、毛組織の栄養障害、あるいはそれに類する何らかの障害が発生し、発毛の機能が一時的に、または永久的に失われることにより生ずる現象をいいます。ここではがんの治療の副作用としておこる脱毛についてお話しします。できれば脱毛がおこらない方がよいのですが、脱毛を予防する確実な方法はないといわれています。そこでなぜ脱毛をきたす放射線治療や抗がん剤治療を行う必要があるかを理解することが大切です。


脱毛はがんによる症状の悪化でも、新たな病気の出現でもなく、単に放射線治療、抗がん剤治療による一時的な副作用なので、症状がよくなり、治療が終われば必ず回復します。したがって、脱毛することを前提にどうしたら脱毛量を減少できるかを考えたり、容姿をどのような方法でカバーするかなどの工夫をしていくことが大切です。脱毛予防について新しい観点からの研究も進んでおり、今後の進展が期待されています。


治療方法によって異なる脱毛

1)放射線療法による脱毛

放射線を頭にかけた場合には頭の毛は抜けますが、頭以外の毛は抜けません。このように放射線による脱毛は、照射した部位だけ脱毛がおきます。放射線は、がん細胞にダメージを与えると同時に正常な皮膚の細胞に対しても、影響を及ぼします。照射を受けた部位の皮膚が皮膚炎をおこし、その程度がひどいと毛根まで影響が及び、通常治療開始2~3週間より脱毛がはじまります。しかし、放射線療法が終了し、皮膚の炎症がおさまってくると、元々もっている人間の細胞の増殖によって、正常な皮膚が復活し、毛根も発毛の準備が整います。個人差と毛根の障害の程度にもよりますが、治療終了後、2~3ヶ月で毛が生えはじめます。


2)抗がん剤治療による脱毛

抗がん剤による脱毛がなぜ起きるのかは判明していませんが、抗がん剤により毛根が障害をうける結果おこると考えられます。抗がん剤治療は全身の治療です。そのため、体毛全体に影響を及ぼします。しかし毛根が完全に障害されてなくなることはないため、抗がん剤による脱毛は一時的なものです。通常1~3週間で抜け始めます。治療が終わると1~2ヶ月で再生が始まり、3~6ヶ月でほとんど回復しますが、個人差、治療の組み合わせにより異なります。また脱毛は薬の種類によってその影響が異なります。

脱毛を起こしやすい抗がん剤として主にアドリアマイシン、エトポシド、ファルモルビシン、イフォスファミド、サイクロホスファマイド、ビンクリスチン、ブレオマシン、メソトレキセート、ビンデシン等があります。


脱毛したときの手入れ法

個人差はありますが、抜け始めると1週間から2週間位でかなりの量が抜けてしまいます。脱毛は髪を洗ったり、とかしたりした時に多く、朝起きると抜けた毛が枕のまわりについているのが目立ちます。抜ける時期は短い髪の方が始末が簡単のようですから、思い切って短くしてしまうのもよいかもしれません。衣類や枕の周りについて入る髪の毛は、ガムテープなどを使用すると、簡単にとることができます。キャップをかぶって寝るとまわりに髪の毛が落ちることもなく、脱毛の不快を多少軽減できるようです。


脱毛をおこした患者さんによく聞かれる質問にお答えします。


洗髪

1) 頭部に放射線治療を受けている方

 放射線治療中は皮膚が過敏で傷つきやすい状態です。万が一傷ついた場合、治りにくくなります。皮膚を保護するため、ぬるま湯で洗い流す程度とし、また、シャンプー・リンスなどは使用せず、こすらないようにしましょう。

2) 抗がん剤の治療を受けている方

 いつも通り行っても脱毛の程度は変わりません。ただ、傷をつけますと化膿することもありますから傷をつけないようにしましょう。刺激の強いシャンプーやリンスは避けましょう。


整髪

髪をとかすと抜けるのが早いからといってとかさない人がいますが、髪がもつれてからみますので、注意してとかし、傷をつくらないようにしましょう。また、特に頭部に放射線療法を受けている方は、地肌が非常に弱くなっているので、地肌に触れないように静かにとかしましょう。


パーマや髪染め

いずれの治療の場合も刺激になりますので、皮膚の様子をみて主治医の許可がでるまで避けましょう。


かつらなど

必ず必要というものではありません。外観上容姿を整えるという点から、かつらを用意している方がいます。仕事上必要だったり、個人的にどうしてもかつらが必要という方はあらかじめ用意された方がよいでしょう。かつらは高額なものからお手頃なものまでいろいろあります。購入する場合は、一時的に使用することを考慮して、「かつら」を扱っている病院の売店や美容院、デパート等の売場で相談するとよいでしょう。

夏目雅子ひまわり基金という制度があり、化学療法実施中にかつらを借りられる方法もあります。詳しくは主治医にお聞きください。

かつらの他にスカーフ・帽子などを利用する方もいます。人によって抜け方が違うので、個人の選択に任されています。ただし、頭部に放射線療法を受ける方の場合、地肌を傷つけたり、むれたりしないよう、タオル地などの柔らかい素材のキャップの方がよいでしょう。


その他

個人差がありますが、眉毛も抜けやすく、表情がいつもと違った感じに見えてしまうことがあります。そのため男性でも眉ずみで描くのもよいでしょう。


脱毛予防

主として2つの方法が試みられます。但し、効果の程度は個人差があります。


(1) 頭皮の血流を一時的に低下させる方法

頭皮を冷却する方法

頭皮を冷却することで頭皮血管の収縮により、一時的に頭皮の血流を低下させ、血液中に含まれる抗がん剤が毛根に至るのを抑えることで脱毛を予防する方法です。通常抗がん剤の投与5~20分前(当院では15分前)から投与後10~45分までの間、氷片や専用の冷却用具を凍らせたものを帽子のように頭全体に巻きつけます。ただしこれにより頭痛、寒気などがおこることがあります。


(2) 薬剤を用いる方法

化学療法による毛根細胞への障害に対して発毛剤やステロイド剤を治療前後に使用する試みがあります。医師の処方によりこれらの薬剤を内服あるいは直接塗布することによって脱毛後の毛髪の再生に役立つと考えられています。