第40巻第2号 2001年9月

目次

特別報告


総説


  • テレパソロジー:7(63)
    本間慶一、太田玉紀、根本啓一、阿部康彦、渡辺芳明、桜井友子、宇佐見公一、木下律子、小林由美子、泉田佳緒里、佐藤由美、北澤 綾、村山 守

原著


資料・統計


  • 2000年婦人科入院悪性腫瘍統計
    高橋 威、児玉省二、本間 滋、笹川 基、塚田清二、田村 希、西川伸道、網倉貴之
  • 2000年産科分娩統計
    網倉貴之、西川伸道、田村 希、塚田清二、笹川 基、本間 滋、児玉省二、高橋 威
  • 2000年中央手術部手術統計
  • 2000年放射線治療の概要
    斎藤眞理、植松孝悦、海津元樹、椎名 真、小田純一、佐藤洋子
  • 2000年病理部業務統計
    阿部康彦、村木秀樹、渡辺芳明、桜井友子、落合広美、宇佐見公一、木下律子、平山智香子、小林由美子、泉田佳緒里、佐藤由美、北澤 綾、村山 守、余湖奈美子、太田玉紀、本間慶一、根本啓一
  • 2000年度肺がん検診喀痰細胞診成績
    宇佐見公一、阿部康彦、渡辺芳明、桜井友子、木下律子、小林由美子、平山智香子、泉田佳緒里、佐藤由美、北澤 綾、余湖奈美子、村山 守、村木秀樹、落合広美、太田玉紀、本間慶一、根本啓一
  • 2000年発表論文一覧
  • 2000年学会・集会発表一覧

第19回県立がんセンター新潟病院集談会報告


要旨

当院に於けるがん登録患者の5年生存率

小越和栄、内藤みち子、青山美奈子、佐野宗明、堀 節子、渡辺行子、斉藤陽子、 米山久美子、小田純一


県立がんセンター新潟病院が1961年に開院して以来、本年までに5年生存率が算定可能な1995年までに、院内がん登録がなされた入院患者は30,123例となっている。そのうち、5年生存の追跡が可能であった30,112例について、疾患別の粗生存率の算定を行った。全症例の5年生存率は46.93%であった。年代別の推移では、5年間隔で集計を行った。開院当初の1961から65年までのがん患者1,661例の5年生存率は28.78%であった。それに対して1991から95年までの5年間では60.32%と著しい生存率の上昇が見られている。ちなみに、この最近5年間の相対生存率は64.7%となっている。初期と最近の5年間における生存率の比較で、著しい上昇を示している主ながんは胃がんの18.42%から70.72%、肺がんの6.78%から34.47%、白血病の5.56%から47.5%への変化などが見られている。


テレパソロジー

本間慶一、太田玉紀、根本啓一、阿部康彦、渡辺芳明、桜井友子、宇佐見公一、木下律子、 小林由美子、泉田佳緒里、佐藤由美、北澤 綾、村山 守


遠隔医療の一分野であるテレパソロジー(以下テレパソ)の歴史と現状、今後の展望について述べる。テレパソは、 (1)病理医の絶対的不足、(2) 病理診断への質的、量的要求の増大、(3) マルチメディア機器の進歩、(4) 平等で均質な医療への期待などを背景として1990年代から開始され、現在ではINS64を主なる通信手段として、全国で約100施設で稼働中と言われる。県内では本院のシステムも含め、3つのシステムが稼働中である。テレパソには病理医不在病院での術中迅速診断支援と病理診断のコンサルテーション・カンファランスの二つの利用法があり、通常テレパソというと前者を思い起こす。画質や操作性の問題、経済性、システムの互換性などに問題はあるが、将来的には克服可能と思われる。テレパソを有効に活用することによって、術中迅速診断や病理組織診断の地域間格差解消をめざすことができ、これは遠隔医療の本来の目的にも合致するものである。


麻酔科における転移性脊椎腫瘍に対する疼痛緩和法の検討

高田俊和、丸山洋一、海老根美子


転移性脊椎腫瘍30例に対して行なった麻酔科的な疼痛緩和法を検討した。疼痛治療開始から死亡迄、麻酔科受診から死亡迄の期間はそれぞれ12.3±5.7ヵ月、9.5±6.7ヵ月と長期に及んだ。照射療法に加えて大量のモルヒネ(最終全身投与量406±351mg/日)及び鎮痛補助薬が投与されたが十分な疼痛緩和を得られない症例が多かった。最終的に持続硬膜外ブロックを施行した21例である程度の疼痛緩和を得ることができた(VAS3.4±0.9,治療期間3.7±1.8ヵ月)。このうち10例に対し終末期6ヵ月の間に訪問看護を含む在宅治療を行なうことが可能となり良好な疼痛緩和を得ることができ(VAS3.6±0.6,在宅期間4.6±1.9ヵ月)最終入院期間(1.4±1.1ヵ月)を短くすることができた。転移性脊椎腫瘍の疼痛緩和治療にあたり、長期の外来通院・在宅治療及び入院治療が行なわれることを十分考慮した上で、病期病態に応じて照射・化学療法に加えて鎮痛薬・鎮痛補助薬を含めた集学的な手法を用いてQOLをできる限り上げることが重要と考えられた。


当院における臍帯血移植の現況−赤ちゃんからの贈り物−

小川 淳、片岡 哲、浅見恵子、東7病棟看護チーム


臍帯血の中には造血幹細胞が豊富に含まれており骨髄血の約10分の1の細胞数(2×107/kg)で移植が可能である。現在全国には9この公的臍帯血バンクが設置されている。臍帯血移植の長所としてa.HLA(白血球抗原)が2座不一致でもGVHD(移植片対宿主病)の頻度が低い。b.ドナーの負担が少ない。c.患者登録より移植までに要する期間が短い。短所としてa.生着率が低い。b. 移植後の血液学的、免疫学的回復が遅い。c.患者体重により移植の適応が制限されるなどがある。当院では今まで主に難治性白血病の6例に臍帯血幹細胞移植を施行した。適応は肉親と骨髄バンクにドナーが存在しないか、病期の進行のための緊急移植であった。4症例に生着が得られた。3症例は体重50kgの年長児であったが細胞数の充分な臍帯血を選ぶことにより問題なく生着が得られた。GVHDは軽度で治療も容易であった。


2000年婦人科入院悪性腫瘍統計

高橋 威、児玉省二、本間 滋、笹川 基、塚田清二、田村 希、西川伸道、網倉貴之


2000年、当科で入院治療を行った悪性腫瘍患者について、疾患の種類と症例数ならびに臨床進行期分類と治療内容について集計報告する。入院以外の外来治療例は本統計には含まれていない。


2000年病理部業務統計

阿部康彦、村木秀樹、渡辺芳明、桜井友子、落合広美、宇佐見公一、木下律子、平山智香子、小林由美子、泉田佳緒里、佐藤由美、北澤 綾、村山 守、余湖奈美子、太田玉紀、本間慶一、根本啓一


2000年(1月〜12月)病理部業務統計をまとめた。総依頼件数は23,805件で、内訳は病理組織診断11,780件、細胞診断12,000件、電子顕微鏡検索47件、病理解剖25件、遠隔病理診断30件、細胞診、組織診を合わせた術中迅速診断691件、院外受託1,302件、肺癌検診喀痰細胞診1,690件であった。業務件数は作製ブロック数40,448個、各種染色標本83,590枚であった。受け入れた研修、実習生は総数18名であった。

2000年は前年途中に導入された病理システムが本格的に稼動し、アルコール・キシレンのリサイクル再利用を開始した。また乳腺センチネルリンパ節生検の迅速診断を開始した。


2000年度肺がん検診喀痰細胞診成績

宇佐見公一、阿部康彦、渡辺芳明、桜井友子、木下律子、小林由美子、平山智香子泉田佳緒里、佐藤由美、北澤 綾、余湖奈美子、村山 守、村木秀樹、落合広美、太田玉紀、本間慶一、根本啓一


2000年度肺がん検診喀痰細胞診は9市町村より委託を受け、1690名の検査を実施した。

男女の内訳は、男性1624名(96.1%)、女性は66名(3.9%)であり、有効検体率は1690例中1685例で99.7%であった。その結果、日本肺癌学会の判定基準に準じ9名(0.53%)の要精検者を判定した。要精検者9名は男性、年齢は57〜77才(平均66.9)で推定された病変は全て扁平型であった。精検受診者は9名(精検受診率は100%)で、精査の結果、肺癌1名(精査後癌発見率は11.11%)が発見された。喀痰細胞診による癌発見率は人口10万対比59であった。


中材業務改善報告

福井孝子、東條義則


平成12年度から、中材及び東西5病棟に2次元バーコードによるS.P.D (supply.processing.distribution)が導入された。S.P.D導入により中材職員1名減、婦長は、予防センター兼任となるため、平成11年度より中材業務見直しをはかり準備をしてきた。S.P.D開始後6ヶ月を経て、1)平成11年以来の業務見直しにより滅菌業務量と作業時間の大幅な縮小効果があった。2)S.P.Dシステム導入により発注業務が正確かつ簡素化された。3)業務見直しとS.P.Dシステム導入による経済効果が明らかであった。


血液培養における分離菌の推移

宇田和美、塚原敏子、千野直子、芳賀博子、秋山俊彦、田中乙雄


起因菌の早期検出を目的とした全自動血液培養装置導入後の1998年1月1日から2000年12月31日までに依頼された血液培養件数は、3910件であった。年次別陽性率は1998年9.8%、1999年7.0%、2000年11.5%であり、増加傾向にある。菌種の推移をみると、1998年グラム陰性桿菌(GNB)54.5%、グラム陽性球菌(GPC)34.1%、1999年 GNB 36.2%、GPC 48.8%、2000年 GNB 41.2%、GPC42.6%であった。3年間で分離されたGNBの順位はE.coli,P.aeruginosa,K.pneumoniaeであり、GPCは、S.epidermidis(MRSE),S.a-ureus(MSSA),α-streptococcus,E.faeciumの順であった。一方、複数菌同時検出例は1998年4例、1999年6例、2000年18例と激増していた。今後も分離菌の推移には注目していきたいと考えている。


がん告知後の患者の不安及び抑うつ度調査 —HAD尺度を用いて—

藤田美知子、丸山美香、島理恵子、上野啓子、町田弘美、丸山洋一


主に外来にて初めてがんの告知を受け、入院待機中の患者を対象に、HAD尺度を用いて告知直後から1ヶ月までの精神状態の評価を試み、またいかなる精神的援助方法が有効であるかを検討した。63名から222件のHADS調査票が回収され、おおむね20〜30%の患者が不安状態もしくは抑うつ状態にあると思われた。またHADSの不安値は患者間の差が大きく、告知後3日目をピークに時間経過や入院により軽減するのに対し、抑うつ値は不安値より高値で患者間の差は少なく、時間経過や入院によっても軽減せず高値が持続することが判明した。さらに自由記載欄に闘病への前向きな姿勢を記した患者のHADS値は、不安や悩み・うつなどの心情や入院待ちの不安を記した患者のHADS値より有意に低値であった。

以上よりHADSを用いた精神症状の評価は、精神的援助を必要とする患者の選択に有用であり、また医療サイドからの適切な情報提供や入院時期を早める努力は、患者の不安の軽減に有効である。しかし抑うつの軽減の為には医師及び看護婦の精神的援助技術の向上を含めた院内体制の整備や、精神科医との連携の強化が必要であることが示唆された。


乳癌の化学療法における副作用と外来看護記録の改善

長谷川千夏、五十嵐収子、堀内和子、杉井さとみ、鈴木裕子、渡辺栄子、高橋フミエ、坂上典子、中村キソ子、佐野宗明


外来で行われる乳癌の化学療法における副作用を調査するために、Japan Clinical Oncology Group(JCOG)の副作用判定基準を参考にし看護記録を改善した。

低用量AC療法・標準的CMF療法・マンスリータキソテール療法を受けている患者に対して14項目の副作用を調査した。その中で頻度の高かったPerformance Status、悪心/嘔吐、食欲不振、口内炎、脱毛の5項目に関してデータを集計し、解析した。

いずれの治療法とも脱毛以外の項目でgrade0、1が60〜70%を占めた。副作用の状態にはかなりの個人差もあるが、ほとんどの患者は日常生活に支障をきたすことなく治療を受けており、乳癌の化学療法は外来で十分対処できると判断できた。脱毛はgrade1と2が70〜90%と高値であった。

JCOGのgrade別で記入することにより短時間で情報収集ができ、医師への情報提供もスムーズとなった。また、患者の自宅での日常生活や副作用の状態が明確になり、看護婦間で情報や問題点の共有ができるようになった。