第38巻第1号 1999年1月

目次

総説


特集 低侵襲性がん治療の進歩


原著


症例


  • アレルギーの1剖検例の再検討:44
    根本啓一、本間慶一、太田玉紀、桜井友子、西村公栄、落合広美、宇佐見公一、小林由美子、泉田香織里、佐藤由美、紫竹伸子、市橋直子、村山 守、島津ハナ

要旨

腎細胞癌治療の現況と今後の展望

北村康男


腎細胞癌は近年の画像診断の進歩・検診の普及により症状のない偶発癌の増加を認め、1980年代はじめより症例数の増加を認めてきている。当院での治療成績を見ると、全症例での3年・5年・10年・20年の疾患特異的生存率は70.4%, 64.2%, 50.0%, 45.0%である。腫瘍径が3cm以下の症例は早期癌の範疇に入るが、遠隔転移を伴う症例の1年生存率は40%程度であった。  治療に関しては、手術的切除以外の有効な治療法は少なく、現在捕助療法で最も有効な治療であるインターフェロン療法も奏効率では20%程度に過ぎない。現在臨床試験が行われている各種サイトカイン療法、モノクローナル抗体療法、癌ワクチン療法、抗癌剤による化学療法、またこれらの併用療法の発展に期待するところである。


脳外科領域におけるminimally invasive surgery

吉田誠一


脳外科の分野でもincrease precision, reduce traumas を目指した新しい治療技術の開発が進められており、その内容は、神経内視鏡、コンピュータ誘導定位脳手術、血管内外科、放射線外科、手術支援システムの開発などである。神経内視鏡は側脳室周辺腫瘍の生検、水頭症の治療などに応用されており、CT誘導型定位脳手術装置を用いて、高血圧性脳内血腫の除去や深部脳腫瘍組織の生検術などが局所麻酔下で施行されている。出血性腫瘍の腫瘍栄養血管の術前閉塞や脳動脈瘤などに対するコイル塞栓術などの血管内外科、ガンマナイフやリニアックなどの局所定位放射線治療、脳機能解剖モニターや脳手術ナビゲーションシステムなどの手術支援システムの開発なども盛んとなっており、近年のInstrumental Brainsurgery の概要を紹介する。


進行肺癌

塚田裕子、森山寛史、横山 晶、栗田雄三


肺癌の罹患年齢は諸臓器の中でも高齢に偏っており、積極的治療を受けることが困難な症例も多くを占めている。本稿では、侵襲の少ない治療により標準的治療に準ずる効果を得ようとする「低侵襲性」治療について、主に高齢者を対象とした臨床試験の結果を中心に述べる。肺癌治療において高齢という場合70歳以上を指すことが多いが、年齢は必ずしも有意な予後因子ではなく低侵襲性治療の対象とすべきか否かの判断は単に年齢だけでなくPS・臓器機能など含め総合的にする必要があると考えられる。III期非小細胞肺癌では照射と低用量のカルボプラチンの連日併用が期待されており、IV期症例に対してはビノレルビンの単剤治療の有用性が示されている。小細胞肺癌においては経口エトポシドなど侵襲の少ない中途半端な治療をするより、むしろ若年者の治療に準ずる積極的治療を行った方がよいという考えの方が最近は優勢である。今後、低侵襲性治療の適応の基準を確立し、侵襲性が低いということだけでなく、緩和治療のみと比較した場合の生存・QOL ・症状緩和など何らかの点での優位性を科学的に証明していくことが必要である。


早期胃癌に対する低侵襲性外科治療の現状と評価

梨本 篤、薮崎 裕、土屋嘉昭、筒井光広、田中乙雄、佐々木壽英


早期胃癌(EGC)に対する低侵襲性外科治療[mimimally invasive surgery(MIS)}として,外科的局所切除(SLR)112例,腹腔鏡下楔状胃切除(LAP)5例,幽門保存胃切除術(PPG)51例,噴門側胃切除術(PXG)38例,大網温存縮小胃切除術(OPG)377例を施行してきたので各縮小術式につき臨床評価を加えた.


肝癌の局所治療に挑む経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)

加藤俊幸、小堺郁夫、秋山修宏、船越和徳、兎澤晴彦、菅野 聡、斉藤征史、小越和栄、孫 鮠巍.


肝癌に対する局所療法としての経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)を検討した.超音波誘導下に深部電極を挿入し、60Wx60秒間で焼灼凝固を行った.対象は肝細胞癌40例で、平均年齢は67歳(45〜87歳)、B型肝炎2例・C型肝炎36例で,うち90%に肝硬変を合併していた.腫瘍径は1.2〜6.4cm(中央値2.7cm)の結節型肝癌で、うち絶対的適応の3cm以下は15例であった.1日2〜5回の通電で延べ52日142回施行した.腫瘍径3cm以下では壊死効果がTNⅤ(完全壊死)は17例77.3%,TNⅣ(50%以上)3例22.7%で極めて有用であり、3カ月後の局所再発は3例であった.PMCTは小肝癌への有用な局所治療法で、複数回のPEITに優る効果を認めた.また径3cm以上では完全壊死は22.2%と低く、腫瘍残存のための追加治療を要した.合併症として穿刺時出血を3例に認めた.


乳房温存術における三次元ヘリカルCTの有用性-断端陽性率の検討-

植松孝悦、椎名 真、小林晋一、清水克英、斎藤眞理、小田純一、石川浩志、佐野宗明、牧野春彦、本間慶一


目的:三次元造影ヘリカルCT(HCT)による手術シミュレーションの結果をもとに選択された手術術式が適切であるかどうかを断端陽性率にて検討して, 乳房温存術におけるHCT の有用性を明らかにする.

対象:新潟県立がんセンターで,術前HCTの所見をもとに乳房温存術を施行した浸潤癌123例.

方法:乳房温存術式別の断端陽性率を検討した.

結果:断端陽性率は腫瘤切除術15.5%(13/84),四分円切除術17.9%(7/39),乳房温存術全体で16.3%(20/123)であった.この結果は,一般に報告されている乳房温存術の断端陽性率よりも低い.

まとめ:HCTによる手術シミュレーションは乳房温存術の適格者選定に有用である.


当院における皮膚癌症例の近年の動向

竹之内辰也、山口英郎、勝海 薫、追手比佐子、鈴木和子、赤井 昭


近年の本邦における皮膚癌の増加は人口の高齢化がその主因とされているが、オゾン層の破壊に伴い今後予想される有害紫外線の増加の影響を明らかにするため、皮膚癌の疫学データの重要性が高まっている。1973〜1998 年までに新潟がんセンターで経験した皮膚癌の総数は876例であり、内訳では基底細胞癌が最も多く、次いで有棘細胞癌、Bowen病が多かった。年間症例数は26年間で7倍近くに増え、いずれの皮膚癌も増加傾向にあったが、高齢者に好発する日光角化症の増加が著しかった。年齢階級別に年次推移をみると、主に70歳以上の高齢層が増加していた。

皮膚癌発生の実態の把握には地域癌登録の充実が必須であるが、新潟県がん登録事業における皮膚癌の登録精度は低く、関連施設への積極的な呼びかけが今後の課題と思われた。


蚊アレルギーの1剖検例の再検討

根本啓一、本間慶一、太田玉紀、桜井友子、西村公栄、落合広美、宇佐見公一、小林由美子、泉田香織里、佐藤由美、紫竹伸子、市橋直子、村山 守、島津ハナ


17年前の蚊アレルギーの1剖検例について、現在の病理学的視点で再検討した。症例は20才、女性。6才時より蚊アレルギー症状出現。次第に細胞性免疫の低下をきたし、末期には血球貪食症候群を呈し死亡。全身性病変発現から3ケ月、全経過14年。皮膚の組織像は病初、リンパ球の軽度の増生を認めた程度であったが、末期はangiocentric lymphoma(ACL)に類似。解剖の結果、大小のリンパ球、赤血球や核片を貪食したマクロファージの増殖が種々の臓器に認められ(脾は1100gに腫大)、悪性組織球症に類似していた。増殖リンパ球はUCHLー1(+)、MT1(+)でT細胞性格を伺わせた。しかし、CD3(ー)、末血中の異型リンパ球がEロゼット形成(CD2)陽性、および解剖時の捺印標本ではLGLが目立ったことから、NK細胞であった可能性が強い。なお、ISH法によるEBウイルス(EBERー1)の検索では、11才時の皮疹の時期、ACL像を呈した末期、解剖時いずれも増殖リンパ球に高頻度に陽性で、比較的早期よりEBウイルスの関与が示唆された。