婦人科のがん: 子宮頸がん

子宮頸がんとは

子宮の入り口(子宮頚部)に発生するがんです。20~30代の女性にも多く、妊娠・出産に影響することもあり、予防早期発見が重要です。


発生原因

性交渉によるヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus :HPV)の感染が引き金になるとされています。そのウイルスの亜型(遺伝子型)は100以上あり、子宮頸がんに関連しているの(高危険群)は16型、18型、31型など十数種類と考えられています。HPV感染を原因として子宮頸部上皮内腫瘍(Cervical intraepitheral neoplasm:CIN)を経て子宮頸がんになると考えられています。HPVに感染したもの全てが発癌するのではなく、大部分は一過性で1~2年以内に消失し、高危険群HPVの5-10%程度が持続感染し、その一部が癌化すると考えられています。高危険群HPVは、16型が50%以上を占め、18型と合わせると全体の70%程度を占めます。


罹患の状況

CIN3の一部(以前上皮内がんと分類されていたケース)を含めると推定罹患数は年間約32000例(2011年)で、年間死亡数は約2600人(2013年)と言われています(国立がん研究センターがん対策情報センター)。比較的早期がんが多いですが、最近では若年者(20歳代から)に増加しているという問題点があります。HPV感染は、性行為によって引き起こされ、低年齢での初交や、性的パートナー数が多い、妊娠・分娩回数が多い、喫煙、免疫能低下などにより「がん」になる危険性が高くなるとされています。

症状

初期がんでは「無症状」ですが、病気が進行するに従って「性交後出血」、「不正出血」、「持続的出血」、「多量出血」となります。

分類(組織分類など)

70%以上が扁平上皮がんですが、最近は腺がんの比率が上昇してきています。

進行期

前がん病変である子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)1→2→3→子宮頸がんと進行していくことが知られています。


(1) CIN1及びCIN2

CIN1及び2は自然消退することも多く、この段階では原則経過観察します。


(2) CIN3

癌化への頻度が高くなります。また円錐切除で切除した子宮頸部を細かく調べると子宮頸がんが発見される場合もあります。このためCIN3になれば円錐切除術で病理組織の確認が推奨されます。妊娠中にCIN3と診断された場合には、原則分娩が終了した後に病変を確認して、その際の状況に応じて治療を計画します。


(3) 子宮頸がん

進行期 (FIGO2018)


  • I期:子宮頸部に限局
  • II期:子宮外へ伸展するものの、骨盤内にとどまる状態。
    腟に浸潤している場合をIIA期、子宮傍組織に浸潤している場合をIIB期になります。
  • III期:腟下1/3に及ぶ浸潤、骨盤壁に及ぶ浸潤、もしくはリンパ節転移を認めた状態。
  • IV期:膀胱/直腸に浸潤を認めた状態、骨盤外へ転移を認めた状態。

検査法・診断法

(1) 細胞診

子宮頸部で、がんの好発部位から直接細胞を擦過して顕微鏡で観察する方法です。簡便な検査方法であり、がん検診や円錐切除後の経過観察のために行われます。


(2) ヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus :HPV)の検査

HPV検査は下記の場合に行うことがあります。


  • 子宮頸がん検診でASC-US( 意義不明な異型扁平上皮細胞 )と判定された場合。ASC-USと判定されても、子宮頸がんの原因であるが高リスク型HPVでなければ、将来に癌化する確率が低く、1年後の再検査で良いとされています。
  • CINの円錐切除後の経過観察。再発の早期発見に有用とされています。
  • CIN1/2の管理方針の個別化。CIN1/2は原則経過観察で良いとされていて、HPV検査は必須ではありません。HPV検査をさせていただき、検出されたHPVのリスクにより管理方法を変えることもあります。

(3) コルポ診(拡大鏡観察):8~20倍の拡大

初期がんは肉眼では診断できないので、必ずコルポ診で観察し組織診が行われます。専門的な検査法です。


(4) 組織診

病変の程度を確定する最終的な診断法で、コルポ診で確認した病変から採取し治療方針が決まります。


(5) 画像診断

組織診でがんと診断された症例についてがんのひろがりについて調べる検査法


  • 超音波検査 :外来で簡便に腫瘍の大きさなどを確認します。
  • CT検査:リンパ節転移や遠隔転移の有無を評価します。
  • MRI検査:腫瘍の大きさ・性状、腫瘍の進展度合いなどを評価します。
  • PET-CT検査:全身の転移巣の有無などを評価します。

治療法

手術療法、放射線療法、化学療法が中心となります。


(1) 手術療法

  1. レーザ−蒸散
    1. レーザーで病変組織を気化・蒸散し消失する方法です。CIN3とCIN2の一部が適応となります。診断のための組織が残らない問題点があります。
  2. 子宮頸部円錐切徐術:レ−ザ−メス使用
    1. 子宮頸部を円錐状に切除する方法で、CIN3とCIN2の一部が適応となります。IA1期でも脈管侵襲がなければ円錐切徐術のみで子宮の温存が可能なことがあります。 レーザ−蒸散、子宮頸部円錐切徐では子宮は温存されますが、再発のリスクもあり、再手術が必要となることもあります。
  3. 子宮摘出
    1. 単純子宮全摘術
      1. CIN3で病変が頸管内の奥にある場合(高齢者に多い)や妊孕性の温存が不要な場合、上皮内腺がんなどで適応になります。浸潤がんでもIA1期の場合に適応となることがあります。一般的には開腹手術で行いますが、出産経験のある方の場合には経腟的に手術を行うこともあります。
    2. 準広汎子宮全摘術
      1. IA期が適応となります。IA2期ではリンパ節郭清を含む準広汎子宮全摘術以上の手術が施行されることが多いですが、診断的円錐切除術にて脈管侵襲を認めない場合にはリンパ節郭清の省略を考慮できます。
    3. 広汎子宮全摘術
      1. IB1期以上で手術が可能な症例の標準的な手術法です。子宮傍組織を含めて広汎に摘出し、併せて卵巣・卵管(若年者や進行期、組織型によっては温存)、骨盤内リンパ節郭清を行います。術後に発生する下肢のリンパ浮腫に対しての予防と対策、改善の指導も行っています。
    4. 広汎頚部切除術
      1. 進行がんの方の妊孕性を温存する術式です。進行期(IB1期まで)や腫瘍のサイズ、組織型など特定の条件が合う方で、強く挙児希望がある場合に施行されます。子宮傍組織を含めて子宮頚部は広汎に摘出しますが、子宮体部と卵巣・卵管は温存します。骨盤内リンパ節郭清は行います。ただしこの手術は、術後の妊娠分娩管理が重要であり、産科の無い当院では現在のところ行っていません。

(2) 放射線治療

全身状態(年齢、進行期、合併症)などを考慮して放射線療法を行います。一般的には、骨盤内照射(外照射)に子宮腔内からの照射を併用して行われます。初期がんでは、腔内からの照射のみで行われることもあり、外来通院でも治療可能です。また組織内照射という最先端の治療法を行う場合もあります。


(3) 抗がん化学療法

放射線治療と併用したり、進行、再発がんに行われることが多い治療法です。血管新生阻害薬であるアバスチン®を併用することもあります。


(4)免疫チェックポイント阻害剤

免疫チェックポイント阻害剤はがん細胞から免疫細胞に送られているブレーキをかける信号を遮断します。免疫細胞が活性化され、抗がん作用が発揮されます。免疫チェックポイント阻害剤は多くのがんで使用されています。進行又は再発の子宮頸癌に抗がん剤と併用(キイトルーダ®)や単独(リブタヨ®)で使用します。


予後

子宮頸がんの進行期別予後

進行期(FIGO2008) 5年生存率
I期 92.3%
II期 76.2%
III期 56.5%
IV期 32.2%

(日本産科婦人科学会第63回治療年報から改変)


当院の子宮頸がん患者数

2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
43名 44名 37名 53名 46名 51名 31名