消化器がん:胃がん

胃がんとは

胃がんは胃の粘膜から発生する悪性腫瘍です。高齢男性に発生しやすい分化型腺がんと、若年女性にも多い未分化型腺がんに分類されます。

胃には肉腫(GIST)や悪性リンパ腫なども発生しますが、胃の悪性腫瘍の大多数(95%以上)は、胃がんによって占められています。

胃がんの発生要因としては、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染、喫煙があります。高塩分食品の摂取も、発生する危険性を高めることが報告されています。


胃がんの頻度

新潟県のがん罹患率 (新潟県がん登録,平成28年,上皮内がんを含む)によると、男性で最も多い癌は胃がんであり、次いで肺がん、前立腺がん、結腸がん、直腸がんと続きます。女性では1位が乳がん、次いで結腸がんで、胃がんは3位です。全がんに占める胃がんの割合は、男性20.9%、女性12.9%でした。胃がんはピロリ菌の感染率の低下や食生活の変化のため減少していますが、それでも日本人にとっては身近な悪性腫瘍の1つです。国内でも地域差があり、新潟、山形、秋田など東北日本海側に多く、西日本、沖縄に少ない傾向がみられます。これは胃がんの発生が生活習慣や環境要因と関係していることを示唆しています。


胃がんの診断、治療

(1)最近の動向

胃がんは治りやすいがんのひとつです。早期で発見されれば90%以上完治することができます。胃がんの治療成績が良いことは、X線検査や内視鏡検査の診断レベルが向上して、早期の胃がんがたくさん見つかるようになったことや、手術の適応が正しく選択され、安全にできるようになったことが影響しています。抗がん剤を用いた治療も進んでおり、手術だけで治せない場合や再発した胃がんの治療に成果を上げつつあります。早期胃がんに対しては内視鏡治療を選択することが多く、症状がなくても定期的に胃がん検診を受け、早期発見につとめることをお奨めします。


(2)診断


胃透視検査(レントゲン検査)

バリウムを飲んで、その影をみることで、がんの診断をします。二重造影法といって、発泡剤で胃を膨らませ、バリウムを胃の粘膜に薄く行き渡らせて、粘膜の模様におかしいところがないかを調べます。内視鏡検査が普及した今日でも、胃レントゲン検査は苦痛や危険性を伴わず、胃がん検診として有用です。


内視鏡検査

胃内視鏡検査では、浅く粘膜にとどまった小さな早期がんでも、発見することができます。高画質・高解像度で画像強調拡大機能を有する機種が開発され、病変をより細かく観察できるようになっています。病変が疑われた場合、一部粘膜をつまみ取り、顕微鏡で見て、がん細胞の有無をチェック(生検組織検査)します。


超音波内視鏡(EUS)検査

内視鏡の先端に超音波装置がついており、胃の内腔から胃壁構造の詳細を観察して、がんが胃壁にどの程度入り込んでいるかを診断します。


CT(コンピューター断層撮影)

胃がんと周囲臓器との関係を詳しく見ることができます。また、周囲のリンパ節の腫大や、肺、肝、脳などへの転移の診断にも威力を発揮します。


(3)治療


胃がんの治療には、手術療法、内視鏡治療、化学療法(抗がん剤治療)などがありますが、手術による切除が基本となります。しかし、ある程度進行したがんでは、手術療法と化学療法を組み合わせて治療を行う場合もあります。また、粘膜にとどまる早期の胃がんに対しては、内視鏡を用いて切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行います。


手術療法

各種検査の結果を総合的に評価して、がんの進行程度と全身状態から手術方法を決めます。がんの発生部位や大きさにより、選択される術式は異なってきます。術後の生活のことも考えて、その人のために最も良い手術法を選択します。胃がんに対する手術は、胃の切除と周辺リンパ節の切除とからなります。リンパ節は胃に近いところから1群、2群、3群と分類されています。2群までのリンパ節を切除するのが胃がんの標準手術とされていますが、早期がんでは2群の一部の切除を省略する場合もあります。

胃がん手術の基本は開腹手術ですが、腹腔鏡手術も行われています。お腹に小さな穴を開けて、そこからカメラや鉗子を挿入して手術を行います。傷が小さく、体の負担が少ないことがメリットになります。


(1) 幽門側胃切除術

病変が胃の中央部から出口(幽門)側に存在しているときには、幽門側の約3分の2程度胃を切除し、入口(噴門)側を残すことができます。再建は、胃と十二指腸をつなぐビルロートⅠ法などで行います。胃がんは幽門側にできることのほうが多いので、幽門側胃切除はもっとも多く行われている手術です。


(2) 胃全摘術

胃がんの範囲が広い場合や、入口側のみであっても、胃壁の外側まで進んでいる場合は、胃を全部切除する胃全摘術が必要になります。


(3) 噴門側胃切除術

胃の入口(噴門)側に近いがんでも、早期で比較的小さながんの場合は、噴門側を切除して幽門側を残す手術ができることがあります。


(4) 幽門保存胃切除術

胃中部の早期胃がんに対しては胃の出口にある幽門(筋肉でできている門で食事のながれを調節し、かつ胆汁の逆流を防いでいる)を支配している神経と幽門を温存して胃の中下部を切除する方法です。再建は胃と胃をつなぎます。


内視鏡治療(内視鏡的粘膜下層剥離術ESD)

外科手術は、胃を周囲のリンパ節と一緒に切除しますが、早期胃がんの中で、病変が粘膜内に留まっており、リンパ節転移の可能性がほとんどないと考えられる場合は、内視鏡を使って病変部のみを局所的に切除します。手術に比べると、体に対する負担が少なく、胃がそのまま残るため、食生活に対する影響が治療後もほとんどないことがメリットです。 内視鏡治療でがんが確実に取りきれたかどうかは、顕微鏡検査で確認します。がんが確実に取りきれており、リンパ節転移の可能性が極めて低い場合は、そのまま経過観察を行います。がんが取りきれなかった、あるいは取りきれているが、がんが粘膜より深い層まで達しているなどの理由で、リンパ節転移の可能性がある場合は、追加で手術が必要となります。


化学療法

進行した胃がんに対しては、術後の再発予防として、または遺残したがんを根絶するために抗がん剤を使用することがあります(術後補助化学療法)。薬による治療効果だけでなく、副作用もでることもありますので、主治医とよく相談しながら治療しましょう。一方、少し進行しすぎている場合は手術前に抗がん剤を使い、がんを小さくしてから手術することもあります(術前化学療法)。離れた臓器やリンパ節への転移、腹膜播種を認め手術困難な場合、あるいは術後に再発した場合にも、化学療法を中心に治療を行います。


現在使われている抗がん剤の多くは、細胞分裂の邪魔をしたり、細胞内のDNAを破壊したりすることで抗腫瘍効果を発揮します。このタイプの抗がん剤は細胞分裂が活発な細胞により強く力を発揮しますが、正常な細胞にも作用するため様々な副作用が出現することになります。

近年、分子標的薬とよばれるタイプの抗がん剤も広く使われています。がん細胞の表面に多く見られる物質や、がんの増殖に深く関係したりする物質をターゲットとして開発された薬剤です。がん細胞そのものではなく、がん組織に栄養を送る血管の増殖を妨げる作用を持つ分子標的薬もあります。さらに、がん細胞が免疫機能にかけているブレーキを邪魔する作用を持つ免疫チェックポイント阻害剤の有効性が示され、すでに使用されています。 分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤は、正常な細胞への影響は比較的少ないのですが、薬剤ごとに特徴的な副作用がありますので注意が必要です。

 

 

胃がんに関する基礎知識、検査、治療、療養については、下記も参考にしてください。

胃がん 基礎知識:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]

https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/index.html