治療に関した副作用: 嘔気・嘔吐

嘔気(はき気)・嘔吐とは、なんでしょう

嘔気は胃の中にあるものを吐き出したいという切迫した不快感をさし、嘔吐とは、胃の中の内 容物が食道・口から逆流して勢いよく外に吐き出される状態をいいます。

通常、食事をとると、 消化管(食道・胃・腸など)で食物を柔らかくして運搬し消化液(唾液・胃液・膵液・胆汁又は 十二指腸液など)と混ざりあいます。その飲食物中に含まれている栄養素を、小腸の壁から血液 またはリンパ管を通り吸収できるように分解します。分解された栄養素は、体内に吸収され、私 たちの身体を維持し、生活を営むためのエネルギーとなります(これを消化・吸収といいます) 。


嘔気・嘔吐はなんらかの原因により延髄(えんずい)にある嘔吐中枢が刺激されておこります (この刺激が軽度であれば嘔気、さらにすすめば嘔吐となります)。ここに刺激が加わると胃の 出口が閉ざされ、反対に胃の入り口がゆるみ、胃に逆流運動がおこります。それとともに横隔膜 や腹筋が収縮して胃を圧迫し、胃の内容物が排出されるというわけです。


嘔気・嘔吐はなぜおきるのでしょう

原因はいろいろありますが、がんに関係したもので代表的なものには以下のものがあります。


1. 化学療法による副作用

 中枢神経には嘔吐を誘発する物質に反応して嘔吐中枢を刺激する部分があります。これは、血液中の化学物質の影響を受けやすく、抗がん剤治療による嘔吐は、主にこのルートによりおこりやすいと考えられています。またある種の抗がん剤は末梢の神経を介し嘔吐中枢を刺激します 。
化学療法による嘔気・嘔吐には症状の出方によって大きく以下の3つにわかれています。


  1. 急性薬物起因性嘔吐—薬物投与後1~2時間ではじまり、4~6時間で 消失します。
  2. 持続性あるいは遅延性嘔吐—薬物投与後24~48時間より始まり、数日 から1週間続くものです。
  3. 予測(心因性)嘔吐—以前の嘔吐した体験から脳の中にある大脳皮質を 刺激することによっておこるといわれています。

2. 放射線療法による副作用

 放射線によって体内の細胞が変化を起こし、壊された細胞の成分が血液又は神経を介し、嘔吐中枢を刺激しておこります。


3. 消化管通過障害

 がんの再発・転移による消化管の圧迫・狭窄、手術後の腸管癒着などの原因で起こります。 腹痛、腹部の張り、排便・排ガスがないなどの症状を伴い、食事中・食後に苦しくなり吐くと楽になることもあります。


4. 脳圧の上昇

 脳腫瘍・脳出血・髄膜炎・脳への放射線照射などにより嘔吐中枢を刺激しておこります。多くの場合、頭痛を伴います。


5. 精神的・心理的な刺激

 緊張・不安,不快な臭い・音・味覚などが原因となり、これらの刺激が大脳皮質を介して嘔吐中枢を刺激しおこります。個人差が強く、条件反射化されやすい、また、前記全ての嘔吐を増強させる因子(もと)になりやすいといわれています。


嘔気・嘔吐によって体にどのような問題がおきるのでしょう

嘔吐によって水分と一緒に胃液・十二指腸液などに含まれる電解質も体外に出てしまいます。 電解質(カリウム・ナトリウム・塩素など)は、体内の水分量の調節、神経筋肉の興奮・伝達、 体内の水分性状バランス保持(酸性・アルカリ性に傾きすぎないようにする)などのはたらきがあります。そのため電解質や水分が多量に失われると、脱力感・倦怠感・手足のしびれなどの電解質異常症状や口の渇き・皮膚の乾燥・尿量の減少・体重の減少などの脱水症状がでてきます。 これらがさらにすすむと、だんだんと衰弱し、また意識障害などをおこすこともあります。


また嘔吐することによって、消化・吸収のはたらきが低下し、体内に必要な栄養がいきわたらなくなり、栄養状態の低下・体重の減少がおこります。ほかに、吐物が誤って気道にはいると肺 炎、ひどい時には窒息をおこすことがあります。


以上のように身体的な苦痛だけでなく、精神的にも不安・苦痛をもたらします。そして、それらによって食欲がなくなり食事が食べられなくなり、栄養状態が低下することもあります。


嘔気・嘔吐がおきたらどのようにすればよいでしょう

原因がわからず頻回に嘔気・嘔吐が起これば病院を受診しましょう。嘔気・嘔吐は身体的な苦痛のみならず、精神的な苦痛も大きいので、少しでも軽くするには、次のような工夫があげられ ます。


  1. 誤嚥をさけるため姿勢は横向きにし、全身の緊張をほぐすために膝を深く曲げたり、意識的に深呼吸などして、気分を楽にしましょう。仰向けにしかなれない場合は、顔を横に向けましょう。
    また、背を低くして背中をさすってもらいましょう。急に動くと嘔吐を誘発することがあるのでゆっくり動きましょう。胃を安静(胃の運動をおさえる)にするために胃に氷嚢などをおき、また頭を冷やし、軽く目を閉じて静かにしていましょう。尚、飲食直後、胃の中に内容物が入っている場合は、むしろ嘔吐を誘発させるのも一つの手です。
  2. 口の中の臭いは嘔気を誘いますので、うがいなどして清潔にしましょう。うがいは番茶、レモン水、炭酸水、氷水などでするとさっぱりします。落ちついたら、氷片などを含むのもよいでしょう。
  3. 環境の調整も大切です。吐物は速やかにかたずける、汚れた寝衣・寝具などは清潔なものと交換する、刺激的な香りの花をおかない、室内は静かに暗くする、窓を開けて空気の入れ替えをする、などを行いましょう。
  4. 嘔吐のある場合は、消化管の粘膜が敏感になっているので、食事毎に吐いてしまうような激しいときは、1~2食、食事は差し控えてみましょう。
    この場合でも水分はできるだけとりましょう。

    * 水分は、電解質バランス飲料・栄養バランス飲料・ジュースなどが、体力保持によいでしょう。
    食事がとれそうであれば、食べられそうなものから少量ずつまた分割して食べてみましょう。
    食後は、30分前後安静にしましょう。以下の事項を参考にしてみて下さい。
    ・刺激の少ない消化のよいもの
    お粥・うどん・餅・オートミール・パン・ビスケット・クラッカー・ 半熟卵・プリン・ヨーグルト・チーズ・ジャムなど
    ・電解質を多く含むもの
    カリウムを多く含むもの—バナナ・メロン・チーズ・干しぶどう・ほうれん草など
    ナトリウム・塩素を多く含むもの—ブイヨン・コンソメ・塩など
    ・食べやすい食品(あっさりとした冷たいもの)
    水分の多い果物・野菜(すいか・みかん・りんご・なし・トマトなど)・ アイスクリーム・ 酢の物・和え物・梅干しなど
    ・食事の工夫
    食べやすいように流動的なものにする
    ミキサー利用し果物野菜ジュース・すりおろしたリンゴ・スープなど

    食欲をそそるために柚子・しそ・レモンなどほのかな香りの利用
    ふりかけをかけたり、お茶漬けにしたり、寿司飯にしたり、一口大のお にぎりにしたりなど食器を小さくしてみたり、小盛に盛ったり、また惣 菜は量より種類を増やすなど
  5.  心理的な要素も影響しやすいので、身近な人が手をふれたり、背中をさすったり、優しい言葉で不安を取り除くのもよい方法です。

どのような状態の場合病院に行ったらよい のでしょう

吐物の性状や回数、嘔気・嘔吐の症状の現れる時期(食事に関係がないかなど)は、体の異常を知る大切な目安になりますので、メモでもしておいたほうがよいでしょう。


以下の症状の時は、速やかに受診しましょう。


  • 吐物に便臭がしたり、吐物が血液である
  • 回数・量に関係なく食事・水分摂取が全くできない時期が一両日続く
  • 腹痛・腹部の張り・頭痛・発熱・脱力感が激しい
  • 尿量の減少(体重・年齢など個人差はありますが、通常1~1.5l/日の尿 量が、300~500ml/ 日以下に減少した場合)

以下の治療があります。


  • 原因に応じたはき気止めの薬・安定剤の使用や、必要な栄養・水分・電 解質補給のための点滴を 行います。
  • 胃を空にし、胃の負担を軽くする減圧目的で鼻から胃に管をいれます。
  • 飲食物の通過を妨げている消化管部分を取り除く手術を行います。