血液のがん: 成人T細胞白血病リンパ腫

成人T細胞白血病リンパ腫とは | 症状 | 診断 | 病型 | 治療

 成人T細胞白血病リンパ腫とは

成人T細胞白血病リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma:ATL)は、リンパ系の悪性腫瘍である非ホジキンリンパ腫の特殊なタイプです(「成人非ホジキンリンパ腫」の項を参照して下さい)。

血液細胞は白血球と赤血球、血小板に分けられ、白血球はさらにリンパ球、好中球などに分けられます。血液細胞は骨髄で造られています。骨髄とは骨の中にあるスポンジ状の組織です。骨髄の中で造られた血液細胞は血液の中に出て、それぞれの役割をはたします。白血球は細菌やウイルスなどと戦い、赤血球は全身に酸素を運び、血小板は血を止める働きをしています。

リンパ系は、全身に広がる血管のような細い管であるリンパ管と、リンパ管に介在するリンパ節で成り立っています。リンパ管には、リンパ球を含んだ透明のリンパ液が流れています。リンパ節は小さな豆のような形をした器官で、やはり全身に分布していますが、特にわきの下、頚部、鼠径部(足のつけ根)、腹部、骨盤部に集まっています。脾臓(左上腹部にある臓器)や胸腺(胸骨の裏側にある組織)と扁桃(のどの奥にある組織)もリンパ系の一部です。

リンパ球はリンパ系組織、血液、骨髄の中にあり、細菌やウイルスなどの感染と戦っています。リンパ球は、機能の違いからT細胞、B細胞に分けられます。成人T細胞白血病リンパ腫は、このT細胞が悪性化して、リンパ節や血液の中で異常に増加し、骨髄や肝臓、脾臓、消化管、肺など全身の臓器に広がっていくものです。

成人T細胞白血病リンパ腫は、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(human T-cell leukemia virus type I:HTLV-I)の感染により引き起こされることが明らかになっています。HTLV-Iに感染している人は、日本全国で約120万人(人口の約1%)と推定されており、日本の中でも九州、沖縄など南西日本に多いことが知られています。成人T細胞白血病リンパ腫を発症するのは、HTLV-I感染者1万人について年間6人あまりで、大部分の方はHTLV-Iに感染していても成人T細胞白血病リンパ腫を発症しないことになります。なぜHTLV-Iに感染している人が成人T細胞白血病リンパ腫になるのか、なぜHTLV-Iに感染している人でも成人T細胞白血病リンパ腫を発症する場合としない場合があるのかについては研究が進められていますが、まだ十分に解明されていません。

HTLV-Iの感染の経路は、1)母児間の母乳を介しての感染、2)夫婦間の(特に夫から妻への)性交渉での感染、3)輸血による感染の3つがあります。

母児間の感染は、母親がHTLV-Iに感染している場合、子供の20~30%に感染が起こっており、母乳の中に含まれるHTLV-Iに感染したリンパ球が、その主な原因だと考えられています。母親がHTLV-Iに感染している場合、授乳を中止することにより子供への感染をほぼ防止できることが確かめられています。

夫婦間感染では、主に夫から妻へ、精液中の感染したリンパ球を介して感染すると推定されています。しかし、夫婦間感染によってHTLV-Iに感染した場合は、成人T細胞白血病リンパ腫を発症することは極めてまれであるため、今のところ夫婦間感染に対する特別な対策は立てられていません。

輸血による感染は、1986年から全国の血液センタ-で献血時にHTLV-I抗体のチェックがなされており、現在輸血による感染の心配はありません。

このようにHTLV-Iの感染経路は限定されているので、日常生活で感染することはなく、成人T細胞白血病リンパ腫の患者やHTLV-Iのキャリアが、隔離されたり生活の制限を受ける必要は全くありません。

成人T細胞白血病リンパ腫は、ほとんどが40歳以上の方で、60~70歳に最も多く発症します。

 症状

頚部、わきの下、足の付け根等のリンパ節が腫れます。また肝臓や脾臓が腫れることもあります。細菌やウイルスに対する抵抗力がなくなり、肺炎などの感染症を起こして熱が出ることがあります。また骨髄に広がった場合には、正常な赤血球や血小板が造られなくなります。このため動悸、息切れなどの貧血の症状や、鼻血、歯肉出血などの出血症状が見られることがありますが、他の白血病と違ってあまり多くありません。悪性化したリンパ球が皮膚に広がった場合は、原因不明の皮疹が起こることがよくあります。

また血液中のカルシウム値の上昇もよくみられます。これは悪性化したリンパ球がカルシウム値を上昇させる物質を産生するために起こります。血中のカルシウム値が高くなると、食欲が低下したり、吐き気やのどの乾きを感じたり、呼びかけに対して反応が鈍くなったり、意識を失ったりするなどの症状がみられます。その他、悪性化したリンパ球は中枢神経と呼ばれる脊髄や脳にも浸潤することがあり、頭痛や吐き気が認められることがあります。

 診断

疲れやすい、熱が続く、リンパ節が腫れる、塗り薬で良くならない皮疹などの症状が続く場合は、血液の専門医のいる病院を受診して検査を受けてください。血液の悪性腫瘍が疑われた場合、まず血液検査が行われます。血液検査は血液細胞の数や内容を調べるものです。成人T細胞白血病リンパ腫では、花びらの形をした核を持つ異常なリンパ球の出現が特徴的です。また血液検査では、HTLV-Iに感染して抗体があるかどうかも調べます。リンパ節が腫れている場合には、リンパ節生検が行われます。これは局所麻酔による小切開でリンパ節を取り出し、顕微鏡で悪性細胞の有無を調べる検査です。最終的に成人T細胞白血病リンパ腫の診断を確定するためには、血液やリンパ節の悪性細胞の中に入り込んだウイルス遺伝子の検査を行う場合があります。

成人T細胞白血病リンパ腫と診断された後、病気の広がりを調べるために全身の検査が行われます。目に見えない腹部や骨盤部のリンパ節が腫れてないか、肝臓や脾臓に浸潤していないかを調べるために腹部超音波検査や腹部CTスキャンを行います。胃や十二指腸に浸潤していないかどうかをみるためには、胃X線検査や内視鏡検査が必要です。また縦隔の周りのリンパ節の腫れや、肺へ病気が及んでいないかどうかを調べるため胸部X線検査や胸部CTスキャン が行われます。骨髄に浸潤していないかどうか調べるために骨髄穿刺も行われます。骨髄穿刺は、局所麻酔後、胸骨または腸骨(腰の骨)に細い針を刺して骨髄液を吸引し、顕微鏡で観察します。その他、中枢神経(脳や脊髄)への浸潤を調べるために、腰の部分の背骨の間から局所麻酔後に針を刺して少量の脳脊髄液を採取する場合があります。

 病型

成人T細胞白血病リンパ腫は、多彩な症状、臨床経過をとることが知られていますが、一般に次の5つの病型に分類されます。

1) 急性型

血液中に花びらの形をした異常なリンパ球が出現し、急速に増えていくものです。リンパ節の腫れや、皮疹、肝臓・脾臓の腫大を伴うことも多くみられます。消化管や肺に異常リンパ球が浸潤する場合もあります。感染症や血液中のカルシウム値の上昇がみられることもあり、抗がん剤による早急な治療を必要とします。

2) リンパ腫型

悪性化したリンパ球が主にリンパ節で増殖し、血液中の異常細胞はあまり多くない型です。急性型と同様に急速に症状が出現するために、早急に抗がん剤による治療を開始する必要があります。

3) 慢性型

血液中の白血球数が増加し、多数の異常リンパ球が出現していますが、その増殖は早くなく、症状をほとんど伴いません。無治療で経過を観察することが一般的に行われています。

4) くすぶり型

白血球数は正常ですが、血液中には確実に異常リンパ球の存在する型です。場合によっては皮疹を認める場合がありますが、多くの場合、症状をあまり伴いません。無治療で長期間変わらず経過する例が多いため、多くの場合、数カ月に1回程度の外来受診で経過観察が行われます。

5) 急性転化型

慢性型やくすぶり型から、急性型やリンパ腫型へ病状が進む場合を急性転化型と呼ぶ場合があります。この場合には、急性型やリンパ腫型と同様に、早急に治療を開始する必要があります。この他、リンパ腫型から急性型へ変化することもしばしば経験されます。

血液中のHTLV-I抗体が陽性ですが、症状も検査値異常も全く認められない場合をHTLV-Iキャリア-と呼びます。本人の希望がある場合を除いて、HTLV-Iキャリア-では、定期的な観察は必要ではありません。

 治療

成人T細胞白血病リンパ腫の治療として一般に行われているのは、抗がん剤を用いた化学療法です。抗がん剤は静脈注射や飲み薬などいろいろな種類があり、血管の流れによって全身に運ばれて悪性化したリンパ球を殺すため、全身療法といわれています。また抗がん剤は背中から針で脳や脊髄を包む脳脊髄液にも入れられます。これを髄注と呼びます。

成人T細胞白血病リンパ腫に対する抗がん剤(急性型、リンパ腫型と急性転化型が対象になります)は、通常、非ホジキンリンパ腫に有効な抗がん剤(ビンクリスチン、エンドキサン、アドリアマイシン、メソトレキセ-ト、エトポシドなど)が用いられます。これらの抗がん剤の併用療法によって、30~70%の場合で寛解(悪性細胞がかなり減少して、検査値異常が改善した状態)が得られますが、最終的な治癒が期待できるのは残念ながらごく一部にとどまっています。

最近、T細胞の表面にあるCCR4という抗原に対するモノクローナル抗体が開発され、ATLに対して極めて有効であることが報告されています。商品名はポテリジオですが、2012年6月から発売予定となっており、ATLに対する一つの有効な治療方法として期待されています。

抗がん剤には、正常な白血球や血小板の減少、吐き気、脱毛、口内炎、肝臓や腎臓、肺、心臓、神経系などに対して副作用を生じる場合があり、重症の肺炎などの重大な合併症を起こした場合には、死亡につながる場合があります。担当医から、抗がん剤による化学療法について説明を受ける場合は、期待される治療効果だけではなく、抗がん剤の副作用についても十分な説明を受けた上で、抗がん剤治療を受けるかどうかを判断してください。

近年、健康な人の造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植によってATLを治療する試みが検討されています。特に移植前の化学療法を減量して大量の抗がん剤による副作用を出来るだけ軽減した治療方法(骨髄非破壊的前治療といいます。詳細は“造血幹細胞移植”の項を参照ください)によって高齢の方でも同種造血幹細胞移植による治療が可能となっています。同種造血幹細胞移植によって、ATLウイルスも排除される可能性が報告されており、治癒を目指した治療として注目されています。

当院ではこの治療が可能です。

成人T細胞白血病リンパ腫は治療が難しい病気ですが、より良い治療法を開発するため、世界中で臨床試験が行われています。研究段階の新しい治療法については、その治療法の内容、期待される効果、起こりうる副作用について、十分な説明を担当医に求めてください。その上で、臨床試験の対象となるかどうかを判断してください。

成人T細胞白血病リンパ腫は、通常の非ホジキンリンパ腫に比べ、ウイルス感染症、カビによる感染症、カリニ原虫による肺炎など、健康な人にはほとんどみられない特殊な感染症(これを日和見感染症といいます)が起こりやすいことが知られています。微熱が続いたり、咳や息切れなどの症状があった場合には、担当医に相談して、適切な治療を受けてください。

以上の情報は国立がんセンター がん情報サービス係制作のものを元に作成しました。不明な点、お問い合わせのある方は下記まで御連絡ください。

〒951-8566 新潟県新潟市中央区川岸町2-15-3
新潟県立がんセンター病院
 
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TEL: 025-266-5111
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2012/04/19日更新

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