肺がん
肺がんとは | 肺の構造 | 肺がんの種類 | 肺がんの症状 | 肺がんの検査 | 肺がんの病期 | 肺がんの治療 | 非小細胞肺がんの治療 | 小細胞肺がんの治療 | 臨床試験、治験について | 症状を和らげる緩和治療について | 経済面等について
肺がんとは
肺から発生する腫瘍のうちで、悪性のものが「肺がん」です。
肺に発生したがんを「原発性肺がん」といい、他の内臓に発生した悪性腫瘍が肺に転移したものは、「転移性肺腫瘍」または「転移性肺がん」といいます。
肺の構造
「肺」は、右と左に一つずつある内臓です。右肺は、上葉・中葉・下葉という三つの部分に分かれており、左肺は上葉・下葉という二つの部分に分かれています。右肺と左肺は、それぞれが2層の「胸膜」という大きな袋に包まれています。右肺と左肺のあいだの、気管・食道・太い血管などが通っている場所は「縦隔」といわれます。左右の肺の出入り口(「肺門」といいます)や「縦隔」には「リンパ節」が多数存在しています。
肺がんの種類
肺がんは、発生部位によって
- 肺門型(肺門の近くにできたがん)
- 肺野型(肺門から離れたところにできたがん)
に分類されます。
また、顕微鏡検査でみた、がん細胞のかたちやならび方(病理組織型)により
- 小細胞肺がん
- 非小細胞肺がん
のふたつに分類されます。
小細胞がんは、肺がんの15-20%を占めており、非小細胞肺がんと比較して(1) 増殖が速い、(2) リンパ節や脳・骨・肝臓など他の内臓に転移しやすい、(3) 化学療法や放射線療法が効きやすい、といった特徴があります。
一方、非小細胞肺がんは、小細胞肺がん以外の肺がんの総称で、頻度の高いのは「腺がん」、「扁平上皮がん」、「大細胞がん」の三つです。
肺がんの症状
- 1) 肺の病巣による症状
- 肺門の近くに発生した場合は、「咳」・「痰」・「血痰」・「呼吸困難」・「息切れ」などの症状がみられやすいですが、肺門から離れたところに発生したときは、自覚症状がないことも少なくありません。「体重減少」、「倦怠感」、「食欲不振」、「発熱」などが初発症状になることもあります。
- 2) 隣り合う臓器へ浸潤することによる症状
- がんが、胸膜や胸壁に浸潤した場合には「胸や背中の痛み」がみられます。肺の上の方にがんが発生した場合には「肩の痛み」や「うでのしびれ」がみられることもあります。胸膜にがんがこぼれ落ちて(「播種」といいます。)がん性胸膜炎により胸水が貯まると、「咳」、「息切れ」や「呼吸困難」がみられます。
がん性心膜炎(がんのために心臓の周囲に水が貯まる状態)を併発すると、心臓の動きが障害されて「動悸」、「血圧の低下」、「呼吸困難」などがみられることがあります。
また、右側に発生した腫瘍が、頭やうでから心臓にもどる「上大静脈」に浸潤したり、圧迫したりすると、「顔のむくみ」「うでのむくみ」「前屈みになったときに顔が赤くなる、苦しくなる」などの症状がおこります(上大静脈症候群)。
声帯をうごかす「反回神経」を腫瘍が圧迫したり、浸潤したりすると「声がかすれる」、「息がもれる」、「むせやすい」といった症状がでます。 - 3) 転移した病巣による症状
- がんが骨に転移すると、「痛み」や、神経を圧迫することによる「しびれ」などがおこり、正常な骨よりも軽い力がかかるだけで骨折しやすくなること(病的骨折)があります。
脳に転移することにより、「頭痛」、「吐き気」、「ふらつき」、「半身の麻痺」、「箸や茶碗がうまく使えない、落としやすい」、「ボールペンのキャップがうまくはめられない」、「転びやすい」、「しゃべりづらい」、「物忘れがひどくなる」などの症状がでることもあります。
肺がんの検査
- 1) 胸部単純X線写真
- もっとも基本的な検査です。病気の発見のきっかけになることも多いですが、治療の効果を判断したり、合併症や副作用の出現がないか経過をみていくのに役立ちます。CTに比べると被ばく量が少ないX線検査ですので、反復して実施するのに適した検査です。
- 2) 胸部CT
- からだの長軸に垂直な断面をみる検査で、胸部単純X線写真でみえにくい部分の病変や、胸部単純X線写真では描出されないようなごく小さな病変をみることが可能です。 さらに精度の高い高分解能CTを追加することにより、肺の中の“異常な影”が肺がんらしいかどうかを推測することもできます。
また、がんの大きさや、肺の中や周囲のどこまで広がっているかも調べます。胸壁や太い血管に浸潤していないか、胸水が貯まっていないか、リンパ節が腫れていて転移の可能性がないかなども調べることができます。 - 3) 腹部CTまたは腹部超音波検査
- 腹部の内臓である肝臓・副腎・腎臓・膵臓や腹部のリンパ節に転移がないか、他の合併症がないかどうか調べます。
- 4) 頭部CTまたは頭部MRI検査
- 脳や髄膜に転移しているかどうか、他の合併症がないかどうかを調べます。
- 5) 骨シンチグラム
- 全身の骨を一度に検査して、骨に転移があるかどうかを調べます。骨に異常があると、その場所に集まって写真に黒くうつる性質をもった「アイソトープ」というくすりを注射して、約3時間後、くすりが全身にいきわたった頃に撮影を行います。異常が疑われる場合には、骨のX線写真やMRIを追加撮影することもあります。
- 6) 気管支鏡検査
- 口を通して気管支の中に、「気管支ファイバースコープ」という直径6mmの内視鏡を入れて、気管支の中の様子を観察したり、気管支を通して、肺の中の組織・細胞や細菌をとってきて調べる検査です。
- 7) CTガイド下経皮肺生検
- CTで病巣の位置を確認しながら、からだの表面から針をさして肺の中の病巣から細胞や組織をとって顕微鏡で観察して、がんかどうかなどを調べます。気管支鏡検査と比較して、より小さい病変の診断が可能です。また、採取される組織が大きいので、主に、気管支鏡で確定診断が困難な病変の場合に行われます。
- 8) 胸腔穿刺
- 肺と胸膜のあいだの隙間(胸腔)に水がたまっている場合に、からだの表面から針をさして、この水をとって細胞や細菌などを調べて、水が貯まっている原因を調べます。
- 9) 胸腔鏡検査
- 胸に3ヶ所、小さな穴をあけて、先端にカメラのついた器具を、肺と胸膜のあいだ(胸腔)に入れて、モニター上で肺の表面や胸膜の状態を観察します。組織をとってきて調べることもあります。原則として、手術室で全身麻酔下に行います。
- 10) 開胸肺生検
- 気管支鏡、CTガイド経皮肺生検など局所麻酔で行える検査ではがんかどうか確定診断がつかない場合や、確定診断をつけることが難しい場合には、手術室で全身麻酔下で開胸して生検することもあります。
肺がんの病期
がん細胞の広がり具合、がんの進行状況を「病期」といいます。
病期は、(1) おおもとの病巣(原発巣)、(2) リンパ節への広がり(転移)、(3) 他の臓器への広がり(転移)の3つの情報をもとに決められます。
0、IA、IB、IIA、IIB、IIIA、IIIB、IVの8段階に分けられています。
病期は、肺がんの治療方針を決めるのにもっとも重要なものです。
- 1) 0期
- 気管・気管支の内側の表面を覆う細胞の層の一部にのみ、がん細胞が検出される早期のがん。
- 2) IA期
- がんが原発巣のみにとどまっていて、がんの大きさが3cm以下で、リンパ節や他の臓器への転移を認めない段階。
- 3) IB期
- がんが原発巣のみにとどまっていて、がんの大きさが3cmを超える場合で、リンパ節や他の臓器への転移を認めない段階。
- 4) IIA期
- がんの大きさが3cm以下で、原発巣と同じ側の肺門のリンパ節に転移を認めるものの、他の臓器には転移を認めない段階。
- 5) IIB期
- がんの大きさが3cmを超えていて、原発巣と同じ側の肺門のリンパ節に転移を認めるものの、他の臓器には転移を認めない段階。
あるいは、がんが肺を包んでいる胸膜や胸壁に直接浸潤しているものの、リンパ節や他の臓器への転移を認めない段階。 - 6) IIIA期
- がんの大きさにかかわらず、リンパ節への転移が、原発巣と同じ側の縦隔のリンパ節までおよんでいるが、他の臓器には転移を認めない段階。
あるいは、がんが肺を包んでいる胸膜や胸壁に直接浸潤していて、原発巣と同じ側の肺門のリンパ節のみに転移があり、縦隔のリンパ節や他の臓器には転移を認めない段階。 - 7) IIIB期
- がんの原発巣が、心臓・大血管・気管・食道・脊椎などの隣り合う臓器に直接浸潤している、あるいは胸水または心嚢水が貯まっている。
または原発巣と反対側の縦隔のリンパ節や首のつけねのリンパ節に転移があるものの、他の臓器への転移を認めない段階。 - 8) IV期
- 原発巣のほかに、肺の他の場所や、他の臓器(脳、肝臓、骨、副腎など)にがんが転移している段階。
肺がんの治療
- 1) 手術療法
- 非小細胞肺がんのI期、II期、IIIA期の一部、小細胞肺がんのI期の一部に対して選択されます。
がん病巣のある肺葉全体をがん病巣とともに切除する「肺葉切除」と、その周囲のリンパ節(肺門と縦隔)を一塊に摘出する「リンパ節郭清」が基本となり、これを「標準的根治手術」といいます。
肺機能や心機能の低下・合併症などのために肺葉切除が難しい場合や、早期のがんの場合には、より狭い範囲の肺切除を行う「縮小手術」が選択されることもあります。 - 2) 化学療法(抗がん剤による薬物療法)
- 抗がん剤によって、がん細胞の分裂・増殖を直接あるいは間接的に阻害して、がん細胞を死滅することを目的とする治療法です。
化学療法を行うことが適切かどうか、どの抗がん剤をどのような量で使用するのがよいかは、がん細胞の種類(小細胞がんか非小細胞がんか)、がんの進行度(病期)、および患者さんの体力(日常生活を健常なひとと同じように過ごすことができるか)、各内臓の機能(心臓、肺、肝臓、腎臓)に基づいて判断されます。
適切な化学療法によってがんが縮小し、症状の軽減や生存期間の延長が認められます。
多くの抗がん剤は、点滴または静脈注射で使用されます。一般に1〜2週間(1日のみ、3日連続、週1回など薬の種類によって投与スケジュールは異なります)抗がん剤を投与して、これを3〜4週間毎に繰り返します。何回繰り返すかは、効果・副作用の程度などによって異なります。
副作用の程度や種類は、薬の種類や患者さんの状態によって異なりますが、一般的な副作用としては、食欲不振・吐き気・嘔吐・便秘・下痢などの消化器症状(1週間以内が多い)、白血球減少による抵抗力の低下(10日から2週間め頃が多い)、脱毛(3週間め頃)、全身倦怠感、疲れやすさ、などがあります。この他に、アレルギー反応(発疹など)・不整脈・血小板減少による出血傾向・貧血・口内炎・筋肉痛・関節痛・手指や足指のしびれ・耳鳴り・間質性肺炎(薬剤性肺障害)などがでることがあります。白血球減少・血小板減少・肝機能障害・腎機能障害など自分ではわからない(わかりにくい)副作用をみるために定期的に血液検査・尿検査・レントゲン撮影が行われます。
副作用を予防したり、軽くするための処置をすることは、治療効果を減らすことにはなりません。また、副作用を我慢しすぎたり、対処が遅れると副作用自体が生命に関わることもあります。副作用の早期発見・早期対応により副作用を軽減することは、治療を順調に安全に進めていく上で大切なことですので、治療中に気になる症状があれば、担当医師、薬剤師や看護師に遠慮なく、お話しください。 - 3) 放射線療法
- 1. 体外照射
- からだの外から放射線をあてる方法です。X線シミュレーターやCTシミュレーターなどで放射線を当てる範囲(照射野)を決定し、治療計画装置で、からだのどこにどれくらい放射線を当てるか(線量分布)などを計算します。皮膚の上に、照射野やからだの位置や向きを決めるためのマークをつけます。
治療を開始するときには、計画したときの照射野と治療開始時の照射野が一致していることの確認を行います。
1日1回(または2回)、月曜日から金曜日に照射を行います。照射の回数は、あてる部位やがんの種類によって異なります。照射のときに、熱さや痛みを感じることはありません。
放射線の副作用は全身的なもの(倦怠感、吐き気、など)と、放射線が通過する部位の“やけど”によるものがあります。 - 放射線皮膚炎:放射線を照射する部位の皮膚が赤くなったり、かゆくなったり、色素沈着が残ったりすることがあります。治療中は、その上に湿布をはったり、強くこすったりしないようにしましょう。症状が強いときは軟膏・クリームなどの外用薬を処方します。
- 放射線食道炎:胸部や脊椎の放射線治療で食道にも放射線が当たってしまう場合に、食道粘膜の炎症により、嚥下時の痛みやつかえ感がでることがあります。食事は刺激の強いものは避け、柔らかいものをとるようにしましょう。症状が強いときには食道の粘膜を保護する飲み薬をのんだり、痛み止めを使用したり、しばらく食事を休んでいただくこともあります。
- 放射線肺炎:放射線の通過する肺には炎症が起きてX線上に陰影が現れます。症状がほとんどでないことも多いですが、炎症反応が強いと、発熱・頑固な咳・息切れなどの症状が現れます。炎症が、放射線をあてている範囲を越えて広がった場合には生命に関わることもありますので、発熱・頑固な咳・息切れなどの症状が出た場合には、早めに担当医に申し出てください。放射線治療が終わってから遅れて出る場合も多く、治療終了後、半年くらいは注意が必要です。
- 2. 気管支腔内照射
- 肺門型の肺がんのうちで、大きさが小さく気管支の壁にとどまる早期のがんや、手術後で再手術が困難な場合、低肺機能で手術が難しい場合などに行われます。当院では、体外照射と併用して行われます。
気管支鏡を用いて気管支の中から放射線をあてる方法であり、正常の肺組織に放射線をほとんどあてずに、気管支の中の病巣のみに放射線を集中してあてられる方法です。肺門型の早期がんでは、手術に匹敵する治療成績が得られています。 - 3. 定位放射線照射(ノバリス)
- 目標とする病巣に対して、多方向から集中的に放射線を照射することにより、通常の放射線治療よりも周囲の正常組織への放射線量を極力抑えて治療する方法です。病変部に照射される放射線の量が大きいため、通常5〜7週間かかる治療期間を数日〜1週間程度に短縮することができます。当院では、定位放射線治療専用システムの「ノバリス」を導入して平成17年7月4日から稼動しています。
肺がんで対象となるのは、原発巣の直径が5cm以内の転移のない原発性肺がん、数の少ない脳転移病巣などです。
非小細胞肺がんの治療
- 1) IA期
- 手術療法がもっとも標準的です。
1994年の日本の肺癌登録合同委員会の報告では、IA期の5年生存率は72%でした。肺機能や心機能の低下、合併症などのために手術が難しい場合は、放射線治療(定位放射線治療など)が選択されることもあります。肺門型早期肺がんでは気管支腔内照射や光線力学的治療(後者は当院では行っていません)も、手術に匹敵する治療成績が報告されています。 - 2) IB期、II期、IIIA期の一部
- 手術療法と術後補助化学療法の組み合わせが標準的です。
1994年の日本の肺癌登録合同委員会の報告では、IB期、IIA期、IIB期、IIIA期の5年生存率はそれぞれ50%、47.8%、40.4%、34.6%でした。
IB期もしくはII期に対する術後補助化学療法は5年生存率で10-15%の予後改善をもたらすことが最近の大規模な臨床試験で明らかになりました。
化学療法の内容は、IB期では経口フッ化ピリミジン製剤:テガフール・ウラシル配合剤(ユーエフテイー_)の内服、またはプラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)と他剤の二剤併用療法(IV期の項をご参照ください。)、II期・IIIA期ではプラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)と他剤の二剤併用療法が推奨されています。 - 3) IIIA期、胸水貯留のないIIIB期
- 全身の状態のよい患者さんでは、プラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)を含む併用化学療法と放射線治療の併用療法が標準的です。
肺機能の低下、合併症などのために化学療法の実施が難しい場合は、放射線治療単独が選択されることもあります。 - 4) 胸水貯留のあるIIIB期
- 胸水の量が中等量以上の場合は、まず、胸膜癒着療法を行ってから5)の項に準じて化学療法を行うことが一般的です。
- 【胸膜癒着療法】
胸水とは、肺を包む2層の胸膜のあいだの胸膜腔に過剰に液体が貯まった状態です。胸膜癒着療法とは胸水を排液後、再び、貯まってくるのを抑えるための治療です。- 局所麻酔を用いて2本の肋骨の間から胸膜腔にプラスチック製のチューブを挿入します。挿入後、胸部X線でチューブの位置を確認します。
- 空気が胸膜腔に入り込むことのないように、水で完全に外気と遮蔽した排液装置(プラスチックの箱)に接続します。
- すべての液体を、チューブを通して抜きとります。
- その後、同じチューブから胸膜腔内にピシバニル_などの薬を注入します。この薬のはたらきにより、2層の胸膜が癒着することにより、液体の貯まる空間がなくなり、液体が再び貯まることを防ぐことができます。薬の注入のあと数時間から数日、胸の痛みや発熱などの副作用がみられます。
- 5) IV期
- 全身療法としての化学療法が中心で、これに転移病巣に対する局所療法としての放射線治療や外科的治療を必要に応じて加えていきます。
全身の状態のよい患者さんでは、化学療法によって、生存期間が延長し生活の質が向上することが多くの臨床試験で示されています。
75歳未満で全身の状態のよい患者さんでは、シスプラチン(ランダ_、ブリプラチン_)を含む二剤併用療法が標準的です。シスプラチンと併用する薬としては、塩酸イリノテカン(トポテシン_)、ビノレルビン(ナベルビン_)、ゲムシタビン(ジェムザール_)、パクリタキセル(タキソール_)、ドセタキセル(タキソテール_)があります。ただし、シスプラチンは腎障害・吐き気などの消化器症状が他の薬より強いという特徴があり、このような副作用が懸念される患者さんでは、シスプラチンを含まない二剤併用療法(カルボプラチン(パラプラチン_)とパクリタキセル、カルボプラチンとゲムシタビン、ゲムシタビンとビノレルビン、など)や単剤療法(ビノレルビン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ドセタキセル)も選択肢となります。
75歳以上の患者さんや体力の低下している患者さんでは、副作用と効果のバランスの点から、1種類の抗がん剤(ビノレルビン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ドセタキセル)を使用することが一般的です。
初回の化学療法は、効果と副作用をみながら、3〜6コース行われます。
初回の化学療法で効果のみられない場合や、いったん軽快した後に再燃した場合には、ドセタキセル単剤の化学療法が標準的です(初回にドセタキセルやパクリタキセルを使用している場合はゲムシタビン単剤療法を用いることもあります)。海外では、ペメトレキセド(アリムタ_)およびエルロチニブ(タルシバ_)の有用性が報告されていますが、日本では未承認です。 - 【ゲフィチニブ(イレッサ_)について】
ゲフィチニブ使用に関しては、日本肺癌学会「ゲフィチニブ使用に関するガイドライン作成委員会」から「ゲフィチニブ使用に関するガイドライン」がだされています。最新の改訂は2005年7月25日で、http://www.haigan.gr.jp/gefiti-gaid.pdfで閲覧することが可能です。
ゲフィチニブは、「分子標的治療薬」のひとつです。
「分子標的治療薬」というのは、がんの発生、増殖、転移にかかわるさまざまなたんぱく質や遺伝子(これらを総称して“分子”といいます)のはたらきを抑えることにより、がん細胞のがんらしい性質を抑えようとする治療薬です。がん細胞に特徴的な分子に狙いをしぼって開発されることから、“がん細胞だけに作用して正常の細胞にはほとんど影響を与えず、副作用が少ない”とはじめは考えられていましたが、実際には、これまでの抗がん剤とは異なる副作用や、いのちに関わる重篤な副作用もみられていて、使用にあたっては、抗がん剤と同じように専門医による慎重な処方と、注意が必要な薬です。
現在、日本で肺がんに対して承認されている「分子標的治療薬」はゲフィチニブ(イレッサ_)のみです。ゲフィチニブは、「上皮成長因子受容体(EGFR)」というがん細胞の増殖にかかわるたんぱく質を標的とする薬です。
内服薬で1日1回、1錠を飲みます。効果がみられなくなるか、副作用で継続がむずかしくならない限り、ずっと飲み続けます。
この薬の内服治療の対象となるのは、非小細胞肺がんのうちで、(1) 手術が不適切なIII期・IV期の患者さんで、化学療法を受けた後に再発・再燃した場合、(2) 手術したあとに再発した場合、です。
他の抗がん剤や、放射線治療(とくに胸部の)との併用は安全が確認されていません。
日本人では、約30%の人に、腫瘍の明らかな縮小がみられることが報告されています。ただし、「タバコを吸ったことがない」、「女性」、「腺がん」の患者さんでは効果が高い一方、「タバコをたくさん吸っていた」「男性」「腺がん以外の組織型」の患者さんでは、効果の得られる比率が低くなります。
主な副作用としては、皮膚の障害(発疹、皮膚の乾燥、爪の周囲の炎症、など)、下痢または軟便、が約半数の患者さんにみられます。また、肝機能障害、吐き気、食欲低下、疲れやすさ、などが約10%の患者さんにみられます。
また、急性肺障害・間質性肺炎が約5%の患者さんで発症し、約2%の患者さんでこの副作用が致死的になることが報告されています。
ゲフィチニブの重篤な副作用は、治療開始早期に起こることが多いため、副作用の早期発見・早期対応の目的で、治療開始から4週間は、入院または入院に準じた頻回の外来通院で注意深く治療を行うことが推奨されています。
「全身状態がよくない」、「タバコを吸ったことがある」、「間質性肺炎の合併がある」、「男性」では、急性肺障害の発症のリスクが高いことが報告されています。
ゲフィチニブは、肺がんの治療に十分な経験のある専門の医師が、期待される効果と副作用のリスクのバランスから、患者さんにとって適切と判断した場合に、患者さんがこの薬の副作用の内容などについて十分理解した上で、使用することが必要な薬です。
小細胞肺がんの治療
- 1) 限局型
- 化学療法(シスプラチンとエトポシド(ラステット_)の併用療法)と放射線の併用療法が標準的です。70歳未満の全身の状態がよい患者さんでは、治療の早い時期に放射線と化学療法を同時に実施することが推奨されています。
初回の治療で、腫瘍がほぼ消失する程度の効果(完全寛解)が得られた場合には脳転移による再発の可能性を低下し、生存率を高めるために、予防的全脳照射を行うことが勧められます。 - 2) 進展型
- 全身療法としての化学療法が中心で、これに転移病巣に対する局所療法としての放射線治療を必要に応じて加えていきます。
全身の状態のよい患者さんでは、化学療法によって、生存期間が延長し生活の質が向上することが、多くの臨床試験で示されています。
全身の状態のよい患者さんでは、シスプラチン・エトポシド併用療法、シスプラチン・塩酸イリノテカン併用療法が標準的です。ただし、シスプラチンは腎障害・吐き気などの消化器症状が他の薬より強いという特徴があり、70歳以上の高齢の方など、このような副作用が懸念される患者さんでは、カルボプラチンとエトポシドの併用療法も選択肢となります。
初回の化学療法は、効果と副作用をみながら、4〜6コース行われます。
初回の化学療法でいったん軽快して再燃した場合の標準的治療は現時点で決まっていませんが、初回治療終了後3ヶ月以上経過している場合には初回と同じ治療の効果がみられる可能性が高く、初回と同じ治療法を再度行う場合もあります。3ヶ月以内の再発の場合は、一般に初回に使用していない抗がん剤が使用されます。小細胞肺がんに有効な薬として、塩酸イリノテカン(初回がシスプラチン・エトポシド併用療法またはカルボプラチン・エトポシド併用療法の場合)、塩酸アムルビシン(カルセド_)、パクリタキセル(タキソール_)などが用いられます。
臨床試験、治験について
- 1) 臨床試験・治験とはどんなものか
- がんの「臨床試験」とは、よりよい治療法の開発を目的として、がんの患者さんに新しい治療法への参加をおねがいすることです。新しい抗がん剤の使い方、手術や放射線治療のやり方、それぞれの治療法の組み合わせなどさまざまな治療法を検討して、がんの患者さんにとって、今までより有効な治療法を開発していくのに、なくてはならない研究です。
未承認の薬(あるいは用法)を用いて行う製薬会社が主体となって行う臨床試験のことを「治験」といいます。
「臨床試験」、「治験」は、薬の開発の早い段階に行われる動物実験とはまったく違い、治療という意味をもった“試験的な治療”であり、治療効果を期待しながら行われるものです。
過去の「臨床試験」の積み重ねによって得られる進歩により、年々、がんの治療成績が向上して、昔よりも、肺がんの患者さんは、より長く生きられるようになってきています。
患者さんにとって、「臨床試験」・「治験」に参加することで、今まで最良とされてきた治療法以外に、効果が期待される有望な新しい治療を受けるチャンスをもてることになります。ただし、新しい治療法には、未知の危険が伴うという可能性もありますし、新しい治療を受けても、最良の結果が得られるとは限りません。しかし、新しい治療が、これまでの標準的な治療よりも優れている治療法であった場合、その試験に参加される患者さんは、その治療法の恩恵を他の患者さんよりも早く、最初に受けることになります。 - 2) 臨床試験に参加するとどんなことをするのか
- 正確な研究成果を出すことがもちろん重要ではありますが、データ収集が優先される「人体実験」とは違って、「臨床試験」では、参加される患者さんの健康状態、安全、および治療効果が、まず、優先に配慮されます。
患者さんの安全と人権が守られ、治療効果や副作用が科学的に評価されるように、施設の倫理審査委員会や臨床試験審査委員会などの第三者のチェックを受けた「試験実施計画書」に基づいて、治療や検査が行われます。
臨床試験の期間中は、患者さんの容態をきめ細かくみていくために、通常の治療を受けるときよりもやや頻繁に検査・診察が行われます。併用する薬などについて担当医の指示に従っていただきます。アンケートや日誌の記載をお願いすることもあります。また、治療が終わってからも患者さんの容態について確認させていただくこと試験もあります。 - 3) 第I相試験
- 新しい治療法を、ひとに適用する最初の段階の臨床試験で、投与方法や、安全で効果の得られる投与量を決めることを目的として、主に副作用の評価が行われます。通常、この試験は、他の通常の治療法では効果が期待できない状況の患者さんを対象として行われます。
- 4) 第II相試験
- 第I相試験で決められた投与方法・投与量を用いて、新しい治療法が、有効かどうかを検討するために行われます。有効かどうかは、がんがX線検査(主にCT)で小さくなるかどうかで判断されます。
- 5) 第III相試験
- 第II相試験で、ある程度、有効性が確認された新しい治療法が、これまでの標準的な治療よりも優れている(生存率が高い、副作用が少ない、など)かどうかを確認するために行われます。100人以上の患者さんを対象として複数の研究機関が協力して行われる大規模な臨床試験です。
- 6) 現在(2006年2月5日)、当科で参加している登録可能な臨床試験
- 1. 製薬企業が主体となる臨床試験(治験)
- 「BNP7787の非小細胞肺癌患者を対象とした二重盲検群間比較による検証的試験(第III相)」
抗癌剤による末梢神経障害を軽減する薬の治験です。 - 「ハイカムチン注射用(SK & F104864)の小細胞肺癌に対する臨床評価—シスプラチンとの併用パイロット試験(臨床薬理試験+探索的試験)」
小細胞肺がんに対する新薬の治験です。
- 「BNP7787の非小細胞肺癌患者を対象とした二重盲検群間比較による検証的試験(第III相)」
- 2. JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の臨床試験
- 局所進行非小細胞肺癌に対するシスプラチン、ビノレルビンによる化 学療法後のゲフィチニブと同時胸部放射線治療の安全性有効性確認試験(JCOG0402)
- 高齢者切除不能局所進行型非小細胞肺がんに対する胸部放射線単独と低用量連日カルボプラチン+胸部放射線同時併用療法とのランダム化比較試験(JCOG0301)
- 高齢者進行非小細胞肺がんに対するドセタキセルとドセタキセル・シスプラチン併用を比較する第III相ランダム化比較試験(JCOG0207)
- 限局型小細胞肺癌に対する、エトポシド+シスプラチン(EP)と胸部放射線多分割同時併用療法に引き続く、イリノテカン+シスプラチン(IP)とEPを比較する第III相試験(JCOG0202)
症状を和らげる緩和治療について
がんを抑える治療と並行して、初診時から、肺がんによる痛み、呼吸困難、咳などに対する緩和治療を行っていきます。症状をできるだけ軽減することにより、睡眠や食事が順調にいくようにすることは、体力の消耗を減らし、治療を円滑に進める上で重要です。
- 1) 痛みについて
- 「WHOのがん疼痛治療の指針」にしたがって、痛みのコントロールを行います。弱い痛みに対しては第一段階として消炎鎮痛薬(モービック_、ロキソニン_、ボルタレン_、など)、アセトアミノフェン(カロナール_)を使用、中等度の痛みに対しては第二段階として消炎鎮痛薬にコデイン(リン酸コデイン_)、オキシコドン(オキシコンチン_)を併用します。強い痛みには、第三段階として消炎鎮痛薬にモルヒネ(塩酸モルヒネ錠剤_、オプソ内服液_、MSコンチン_、カデイアン_、塩酸モルヒネの皮下注射・静脈注射)、フェンタニル(デユロテップパッチ_、フェンタネスト_の皮下注射・静脈注射)、あるいはオキシコドンを併用します。これらの方法でも取れない痛みについては、麻酔科医師による神経ブロックなどが行われます。
モルヒネは麻薬に分類されますが、痛みのある患者さんに使用する場合には中毒になったり、だんだん効かなくなったり、頭がおかしくなったり、寿命が縮んだりすることはありません。
モルヒネ・フェンタニル・オキシコドンなどの薬の副作用として、眠気・吐き気・便秘などがありますが、これらは、副作用をコントロールする薬の併用や薬の種類の変更などにより改善することが可能です。
また、モルヒネではとれにくい種類の痛みに対しては、鎮痛補助薬という、普通は痛み止めとしては使われることの少ない抗うつ薬(アナフラニール_、トフラニール_、パキシル_、など)、抗けいれん薬(ランドセン_、テグレトール_、など)、抗不整脈薬(メキシチール_、キシロカイン_、など)等を併用することが有効な場合があります。
また、骨への転移で痛みがある場合は、放射線治療や、骨折した骨の固定・手術が痛みの緩和に有用なことも多く、担当医師は、放射線科や整形外科の医師と相談しながら、それぞれの患者さんにあった方法を考えていきます。 - 2) 呼吸困難について
- 「息苦しい」、「息が切れる」、「胸がせたせたする」、「呼吸しづらい」、「胸がなんぎ」、などの呼吸時の不快感である呼吸困難の原因にはいろいろなものがあり、複数の原因が関わっていることが多くみられます。
原因としては、次のようなものがあります。- 腫瘍によるもの
肺の中の腫瘍の増大によるもの、胸水や心嚢水が貯まることによるもの、がんがリンパ管にそって広がるがん性リンパ管症、がんにより気管支が細くなることによるもの、肺炎の併発、など。 - 治療の影響
放射線性による肺炎、抗がん剤による肺障害、抗がん剤治療に伴う貧血による息切れ、など。 - その他
体力低下に伴うもの、発熱によるもの、腹水が貯まったり便秘がひどくおなかがはって呼吸がしづらい場合、不安感、うつ傾向、精神的ストレス、など。
- 腫瘍によるもの
経済面等について
治療の費用、仕事を休業せざるをえないことによる経済的な心配がある場合は、「傷病手当金」、「障害年金」、「身体障害者手帳」交付による諸手当などの経済支援が受けられる場合があります。これらについては、医療相談室のケースワーカーから支援・アドバイスを受けることが可能です。直接、あるいは担当医・看護師を通じてご相談ください。







